50 青木は実効化主体の例として、「法廷、警察やオンブズマンなど」を挙げている(同上)。
51 同上。
52 James Brassett and Eleni Tsingou, “The Politics of Legitimate Global Governance”,
Review of International Political Economy,
18: 1 (February 2011), p. 1.53 ヴェーバーは、『職業としての政治』(1919 年に行われた公開公演をまとめたもの、脇圭平 訳、岩波文庫、1980 年)において国家の統治という観点から正当性に関する議論を行っている が、本稿では国際関係における正当性に関する議論に焦点を当てている。
54 Ian Hurd,
After Anarchy
(Princeton: Princeton University Press, 2007).44
が、如何にしてこの会議を、特に安全保障理事会における拒否権につき承諾を得るた めに、すなわち「正当性を得るための手段」として用いたかにつき、踏み込んで分析 を行った55。その上で、国連安全保障理事会の正当性が、どのようにその後の同委の 日々の活動、並びに危機管理活動に影響を及ぼしたかについて、1993 年から 99 年に かけての国連によるリビア制裁の事例などを用いて検証している56。
また、クラーク(Ian Clark)は、自著Legitimacy in International Society の冒頭 において、「近年、国際関係に関して、正当性に関する議論が多く聞かれる」と指摘し た上で、1990 年のイラクによるクウェート侵攻から、旧ユーゴスラヴィア紛争、米国 によるイラク侵攻までの期間において、幅広い地域の新聞で引用された当事国や関係 国、その他の国の政府首脳、国連高官など幅広い関係者により、如何に頻繁に正当性 という用語が言及されたかを紹介した57。その上で、「正当性は、多くの標準的な教科 書がそれについて全く言及していないとしても、国際関係の行動において非常に重要 であった」とし、「正当性の中核を占める原則は、誰が国際社会に参加する資格を有す るかに関しての、また参加者の行動の適切な形態に関しての原始的な社会的な合意を 表す。(中略)すなわち正当性は国際社会の存在を示す」と説明する58。また、こうし た論点とは別に、「国際社会の中のアクター達は、その特定の活動や行動が正当であ ることを示すために、正当化活動(legitimation)の終わりなき戦略に従事している」
59とも指摘する。また、正当性を国際社会と両者の関連の中で説明する理由として、
「第1に、社会が正当性概念を解明する。第2に、より議論があるが、正当性こそが 国際社会が何を意味するかに関するまさに核心に位置する」60とする。加えて、「国際 社会とは、主権といった特定の価値、あるいは国際法のような制度ではなく、歴史的 に変化してきた正当性に関する一連の原則のことと考えることが可能である」61と指 摘する。さらに、正当性がなぜ重要かとの論点に関して、以下のように説明する。
第1に、国際的な正当性の学習は、国際的な歴史を説明する根本的に重要な方法を 示す。第2に、正当性は、国際社会における規範の役割を強調するため、これこそ が国家の行動を形成するとともに制約するため、我々は正当性に関わる必要がある。
そして第3に、ある特定の国際秩序にみられる正当性の程度が、多くの学者が唱え るように、その秩序の安定性に直接関係するからである。62
この第1の点に関して、クラークは、正当性の原則は固定されておらず、歴史的に
55
Ibid.
56
Ibid
.57 Ian Clark,
Legitimacy in International Society
(Oxford: Oxford University Press, 2007).58
Ibid
., p. 2.59
Ibid
.60
Ibid
., p. 5.61
Ibid
., p. 7.62
Ibid
., p. 12.45
変化する、との認識から出発するとする63。第2の点に関しては、国家の行動の素因 は何か、という点が国際関係論の最近の議論において最も主要な話題の1つとなり、
長年にわたり議論されてきた、と指摘する64。第3の点に関しては、正当性に基づく 統治のシステムは、強制のみに依存する統治のシステムよりも、より効率的(よりコ ストが少ない)との点が、実務家のみならず、政治理論家によって示唆されてきたと する65。その上で、(統治の)安定性は、強制的でない秩序により得られ、正当的な秩 序は、まさにそれが結果として示す安定性をもって、強制的な秩序と対照されると述 べ、キッシンジャー(Henry A. Kissinger)による「安定性は、一般的に、平和の追 求からではなく、一般に受け入れられた正当性からもたらされた」66との言葉を引用 している。
その上で、クラークは、1648 年のウエストファリア条約から冷戦後の現代に至るま での国際関係の歴史において、正当性が果たしてきた役割と特徴を包括的に説明・分 析している。
さらに、正当性を巡る代表的な先行研究として、例えばコヘイン (Robert O.
Keohane)によるものが挙げられる。彼は、グローバル・ガバナンスを司る国際的組 織(国連や WTO など)の正当性について取り上げ、「正当性は有無の問題ではなく、
程度の問題」、あるいは「現実世界における閾値としての意味を持つ正当性は、理想の 基準である正義と混同されるべきでない」との認識の下で、その正当性を判断する6 つの基準を挙げている67。まず第1は、最低限の道徳的受容性であり、これは例えば、
基本的な人権を侵害しないといった最低基準を充足することである。第2の基準は、
包摂性であり、世界的な規模で規則を策定する上では、当該組織の掲げる目標達成の ために、参加を希望する全ての人々に対して門戸を開放していなければならない、と いうものである。3つ目の基準が認識論的性質(epistemic quality)であり、これは組 織としての高潔性と透明性の側面があるとする。4つ目の基準は説明責任であり、こ れにより支配される側に支配する側をコントロールする力が与えられる、と説明する。
5つ目の基準は、民主主義を促進するかどうか、との基準である。最後の基準は、比 較便益のテストをパスすることであり、これは当該組織以外の組織がもたらす、ある いは当該組織なしでもたらされる結果よりも良いものを作り出すことが出来るか、と いう視点である。こうした基準達成の判断は、静的なものでなく動的なもの、つまり 一定時点の状態だけで行うのではなく、その方向性なども合わせて判断することが重 要としている。
同じくコヘインは、多国間主義における正当性の問題を取り上げ、「組織の正当性 の素因は、インプット面とアウトプット面の正当性に分割出来る」とシャープの議論
63
Ibid
., p. 13.64
Ibid
., p. 14.65
Ibid
., p. 15.66
Ibid
., pp. 15-16.67 Robert O. Keohane, “Global Governance and Legitimacy”,
Review of International Political
Economy,
18:1 (February, 2011) pp. 99-109.46
を引用して説明する68。すなわち、シャープは、「正当性」を「手続き」と「結果」の 側面に分け、前者を「インプットに起因する正当性(input oriented legitimacy)」、
後者を「アウトプットに起因する正当性(output oriented legitimacy)」として、正 当性を議論・判断する場合に、この2つの側面からみるとの視点を提供した69。
その上で、コヘインは、多国間組織の正当性は、アウトプット面の正当性に求めら れると主張する。すなわち、多国間組織による政策決定に関わる利益の範囲は、いか なる個別の国家、国家の自発的な連合、あるいは地域的組織よりも非常に大きく、そ のため、全ての意見が取り込まれる中で、より多くの反対が表明され、審議は促進さ れ、その結果得られた決定はより幅広く受け入れられることとなりうるので、政策効 果はより優れていると考えることが可能となるからである70。
しかし、こうした説明で明らかな通り、このアウトプット面の正当性を確保するた めには、結局、多くの参加者の意見を取り込むといったインプット面での正当性が必 要ということになり、「多国間組織のインプットの正当性に関する根本的な議論は、
代表の多様性と包摂性に関するもの」71と述べる。しかしながら、現実的には、国連 の安全保障理事会を代表例として、従来の多国間組織はこうした民主的な基準に大き く欠けており、正当性が脅かされているとする72。また、グローバルなレベルでは、
民主主義そのものを適用するのは無理なので、実際に機能する多国間組織の完全なシ ステムをデザインすることは無理である一方、高度に相互依存的な世界では、破滅的 な紛争を回避するために国際的な協力が不可欠であり、体系的な国際協力は、確立さ れた規則と慣行を有する多国間組織によって大いに促進されると主張する73。
従って、問われるべきは、可能な選択肢の中で、現存の、あるいは達成可能な多国間 主義の形態は、他の選択肢と比較して、正当的であるかどうか、であり、それを比較 する基準として、少なくとも包摂性、潔さ、認識論的信頼性の3つを共に満たす必要 があるとする74。まず、包摂性に関しては、全ての妥当な利益が有効に代表されなけ ればならないことを意味する75。潔さとは、仮に最有力メンバーが反対しても、有効 な行動をとれることである76。認識論的信頼性とは、換言するとアカウンタビリティ
従って、問われるべきは、可能な選択肢の中で、現存の、あるいは達成可能な多国間 主義の形態は、他の選択肢と比較して、正当的であるかどうか、であり、それを比較 する基準として、少なくとも包摂性、潔さ、認識論的信頼性の3つを共に満たす必要 があるとする74。まず、包摂性に関しては、全ての妥当な利益が有効に代表されなけ ればならないことを意味する75。潔さとは、仮に最有力メンバーが反対しても、有効 な行動をとれることである76。認識論的信頼性とは、換言するとアカウンタビリティ